
Global Legal Update Vol. 113 | 2025年3月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
EU AI 法: 禁止されるAIシステムとAIリテラシーに関する最初の規則が発効
EU AI Act: First Rules Take Effect on Prohibited AI Systems and AI Literacy
欧州連合(EU)のAI法は、AIに関する世界初の包括的な法的枠組みであり、2024年8月1日に発効しました。AI法には、様々なAIのユースケースに適用される開発者と導入者向けのリスクベースのルールが含まれており、AIシステムを(i)禁止、(ii)ハイリスク、(iii)透明性義務の対象といった様々なリスクカテゴリに分類している点に特徴があります。AI法は、規制する様々な分野について、段階的なコンプライアンス期限を定めています。
AI法の最初のコンプライアンス期限である2025年2月2日の時点で、次の規定が発効しました。
- 禁止されるAIシステム:AI法の禁止リスクカテゴリの適用により、「許容できないリスク」をもたらすとみなされるAIシステムの使用が事実上禁止されます。これと並行して、同年2月4日、欧州委員会(EC)は、EU全体でAI法が効果的かつ均一に適用されることを目的とした、禁止されるAI利用に関するガイドラインを公開しました。同ガイドラインは、特に利害関係者のコンプライアンスをサポートするために、法的背景を説明し、禁止されるAIシステムの実例を示しています。
- AI法のリテラシールール:AI法のリテラシールールでは、AIシステム(低リスクまたはリスクなしと分類されているAIシステムも含む)のすべてのプロバイダーと導入者に対し、AIシステムを効果的かつ責任を持って使用するために、その機会とリスクを含むAIに関する十分なレベルの理解をその従業員に確実に提供することが求められています。このルールを遵守するには、企業は従業員向けに適切なAIガバナンスポリシーとトレーニングプログラムを開発し、実行する必要があります。
ECは、汎用AIモデル(様々なドメインとコンテクストで複数のタスクを実行できるAIシステム)の開発者向けに、汎用AI実務指針ドラフトの第2版(「指針」)を発行しました。業界の利害関係者と共同で作成されたこの指針は、EU全体でAI法を一貫して効果的に適用するためのコンプライアンス要件を明確にすることを目的としています。2025年5月までに最終決定される予定の指針のドラフトは、開発者がAI法の規定を遵守するためのガイドラインとして機能します。また、ECは、2025年1月17日、汎用AIモデルで使用されるトレーニングデータを要約するためのテンプレートを既に発表しています。このテンプレートは、今後発表される指針の重要な構成要素です(弊所コメンタリー「ECのAI実務指針とトレーニングデータ要約テンプレート」もご参照ください)。
AI法の禁止事項と義務は、AIシステムを提供または使用する企業に適用されます。違反者は、コンプライアンス違反の性質に応じて、最大3,500万ユーロまたは全世界の年間売上高の7%のいずれか大きい方の罰金を含む、重大な罰則に直面することになります。
特に、汎用AIモデルの提供者に対して、ECは最大1,500万ユーロまたは全世界の年間売上高の3%の罰金を課す可能性があります。ブリュッセルを本拠とするAIオフィスは、汎用AIモデルの提供者に対する義務を執行するとともに、EU加盟国の国家当局がAIシステムに対するAI法の要件の執行を支援します。
次の主要なコンプライアンス期限は2025年8月2日です。同日までに、EU加盟国はAI法の施行を担当する国家当局を指定する必要があります。同日には、罰則、ガバナンス、機密保持に関する規則も発効します。
2026年8月2日、その他の AI 法の義務のほとんどが発効します。それらの義務の中には、(i)特定の重要なインフラの安全要素として、(ii)雇用および労働者管理において、また(iii)重要な民間および公共サービスへのアクセス、信用度評価、生命保険並びに健康保険に関するリスク評価と価格設定に使用される高リスク AI システムに適用される規則が含まれます。AIシステムに関する特定の透明性要件もこの日に発効します。
特に、2025年8月2日以前に市場に投入された汎用AIモデルのプロバイダーは、2027年8月2日までにAI法に準拠する必要があります。
企業は、次の方法で、AI法が自社のAIシステムまたは汎用AIモデルに適用されるかどうか、またどのように適用されるかを評価する必要があります。
- 企業が開発または導入するすべてのAIシステムまたは汎用AIモデルと、それらの想定されるユースケースを特定して文書化する。
- すべてのAIシステムまたは汎用AI モデルを、それぞれのリスクカテゴリとコンプライアンス要件に従って分類する。
- コンプライアンスギャップとリスク分析を実施して、コンプライアンスの問題や課題を特定して対処する。
- 従業員向けのAIリテラシートレーニングプログラムを含む、AI戦略とガバナンスプログラムを開発し実行する。
知的財産
AI生成物の著作物性:米国著作権局が人が著作者であるという要件を分析
Copyrightability of AI Outputs: U.S. Copyright Office Analyzes Human Authorship Requirement
人工知能(「AI」)は、著作権法の文脈において特有の課題を提起しています。AIと著作権が交差する場面で生じるさまざまな問題に対処し、明確にするために、米国著作権局は著作権とAIに関する報告書(「報告書」)を発表する準備を進めています。報告書の第1部は2024年7月に発表され、AIによって、人の外見や声のデジタルレプリカまたはディープフェイクに対処する連邦法の「緊急の必要性」が生じたと結論付けられました。
2025年1月に発表された報告書の第2部では、AIシステムによる生成物の著作権保護を取り上げ、人が著作者であるという要件の観点からAI生成物の著作物性に焦点を当てています。同第2部において、米国著作権局は、著者が作品の作成を支援するツールとしてAIを使用した場合、当該作品の著作物性を分析するには既存の法理で十分であること、すなわち、AIに固有の新しいフレームワークを発表するのではなく、著作権法は人の創作による「オリジナルの」作品のみを保護するという確立された原則に依拠することを明確にしました。そして、当該作品の著作物性の分析に際し、同局の以下のガイドラインが参考になります。
- 人の入力またはプロンプトに応じて生成された完全なAI生成物には人の著作者性が欠如している(人が著作者であるとはいえない)ため、著作物性は認められません。
- 複数のAI生成物から選択しても、1つの生成物を選択すること自体は創造的な行為ではないため、著作物性は認められません。
- 人によって作成され、その後AIによって変更された作品(AIによって強化または変更された手描きのイラストなど)は著作権の対象となりますが、著作権は結果として生じる作品の「知覚可能な人の表現」を対象とします。この点について、人が作成した素材とAIが生成した素材の選択、調整、配置も対象となる場合がありますが、AIのみが生成した要素は対象となりません。
- AI生成物に人が重要な変更を加えた作品は、その変更が「AI生成物を十分に創造的な方法で選択または配置する」か、そうでなければ「著作権保護の基準を満たす」場合、著作物性が認められます。
米国著作権局は、本年後半に報告書の第3部を発表する予定です。報告書の第3部では、すでに多くの訴訟で争われている問題、すなわち著作権で保護された作品を使用したAIモデルのトレーニング、ライセンスの検討、潜在的な責任の割り当てに焦点を当てると発表しています。
その他、2025年2月は以下の情報をAlert/Commentary 等としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
中国、医薬品分野に向けた新たな独占禁止ガイドラインを発表
China Unveils New Anti-Monopoly Guidelines for the Pharmaceutical Sector
対外投資審査の台頭:米国とEUが対策を開始
The Rise of Outbound Investment Screening: The U.S. and EU Initiate Measures
カルテルの外国テロ組織(FTO)および特別指定国際テロ組織(SDGT)指定によるリスクの軽減
Mitigating Risk From the Designation of Cartels as FTOs and SDGTs
エネルギー転換およびインフラストラクチャー
アフリカにおけるエネルギー転換およびインフラストラクチャー
Energy Transition and Infrastructure in Africa
ESG (環境・社会・ガバナンス)
EUが企業サステナビリティ報告指令(CSRD)及び企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CS3D)の延期と適用範囲の縮小を発表
EU Omnibus Package Published: CSRD and CS3D to Be Delayed and Scaled Back
フィナンシャル・マーケット
エンフォースメントからエンドースメント(推奨)へ:米国におけるデジタル資産大統領令への署名と職員会計公報第121号(SAB 121)の取消し
Enforcement to Endorsement: Digital Asset Executive Order and SAB 121 Rescission
米国のデジタル資産に係る規制: 21世紀の金融革新及び金融技術に関する法律案(FIT21)が成立する見込み
Regulating Digital Assets: FIT21 Seems to Fit the Bill
米国証券取引委員会(SEC)、職員法務公報第14号M (SLB No. 14M)において株主アクティビズムに影響を及ぼすガイダンスを改訂
SEC Revises Guidance Affecting Shareholder Activism Under SLB No. 14M and C&DIs
ステーブルコイン関連法令:米国のステーブルコインのための全国的革新の先導及び構築に係る2025年法(GENIUS Act)は天才のひらめき(stroke of genius)なのか?
Stablecoin Legislation: A Stroke of GENIUS?
訴訟・紛争解決
米国のエネルギーの解放(Unleashing American Energy)に関するトランプ大統領の大統領令:外国投資家の米国政府に対する潜在的請求
President Trump's Executive Order on Unleashing American Energy: Potential Foreign Investors' Claims Against the United States
政府規制
米国商務省がAI技術の世界的な拡散を規制する規則を制定
New Export Control Rule Regulates Global Diffusion of Artificial Intelligence
知的財産
EU司法裁判所判決:商標がサプライヤーと製造者の連帯責任に与える影響
CJEU Ruling: Impact of Trademarks on Joint Liability of Suppliers and Producers
裁判所がAI著作権紛争で略式判決を下し、フェアユースを否定
Court Grants Summary Judgment in AI Copyright Clash, Rejecting "Fair Use"
欧州委員会のAI実務指針とトレーニングデータサマリーのテンプレート
European Commission's AI Code of Practice and Training Data Summary Template
世界の営業秘密に関する最新情報:2024年の主な動向
Global Trade Secret Update: Key Developments in 2024
調査・企業犯罪
トランプ大統領、米国司法省(DOJ)の海外腐敗行為防止法(FCPA)の執行を一時停止し、新しい執行ガイドラインの作成を命令
President Trump Pauses DOJ FCPA Enforcement and Orders Preparation of New Enforcement Guidelines
証券訴訟・証券法規制執行
2024年における証券関連争訟の振り返り
2024 Securities Litigation Year in Review
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