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ジョーンズ・デイ・アラート:フランスのヘルスケア法制へのクラス・アクションの導入:ライフサイエンス産業への新たな脅威?

ライフサイエンスは、世界中で最も厳格に規制がなされている産業の1つであり、また、その事業の性格上、訴訟に巻き込まれる可能性が高い産業であるといえます。

過去数年間にわたり、ライフサイエンス産業に関連する企業は、米国において多くのクラス・アクションの対象とされてきました。しかし、米国裁判所の下した判決を勘案すると、クラス・アクションはこれらの企業に対する責任追及のツールとしては適切といえないとも思われます。例えば、米国裁判所は、因果関係や損害に関する各人個別の争点が存在することをもって、製造物責任訴訟をクラス・アクションとして処理することを拒否する理由としています。

それでもなお、ライフサイエンス産業のステークホルダーは、EU域内においてクラス・アクション制度を導入する動きが増大していることを注視する必要があります。例えば、フランス、ベルギー、イタリア、英国においては、現在、製造物責任についてクラス・アクションの利用が可能とされています。リスクを過大評価することは避けるべきではありますが、ヨーロッパにおけるクラス・アクションの導入は、ライフサイエンス産業に関連する企業の訴訟リスクを高める可能性を有するものといえます。

今日、クラス・アクションに関する議論は、とりわけフランスにおいて活発に行われています。数年間にわたる激しい議論と失敗に終わった多くの試みの後、近時の公衆衛生に関するスキャンダルが、ヘルスケアに関連する事案にクラス・アクションを導入することを後押しし、最終的に、フランスヘルスケア制度の近代化を図る法案が、2015年12月17日に採決されました。この法案の45条にヘルスケア製品に関連する事案へのクラス・アクションの導入が規定されており、同法案は2016年7月1日から施行されました。

立法担当者は、フランスにおける「Mediator」(減量薬)、「PIP Prosthesis」(シリコンゲル豊胸手術)および「 Distilbène」(合成ホルモン)に関する事案で近時みられたような高額な費用負担がかかる個々人による訴訟遂行を避け、被害者の法的立場を強化するためには、被害者がひとつのグループとなることが必要不可欠であると判断しました。

ヘルスケアに関連する事案にクラス・アクションを導入する新たなルールは、後述の認定機関が、メーカー、サプライヤーまたはヘルスケア製品もしくは化粧品を使用するケアサービスの提供者に対し、それらの者の法令または契約違反により身体的損害を被った被害者のために、彼らの損害回復を求める訴訟を提起することを認めています。

このクラス・アクションにおいて原告となる認定機関とは、ヘルスケアセクターまたは患者ケアに関する活動を行っており、また、地域または国の認定を受けている機関です。現在、クラス・アクションを提起することが潜在的に可能な認定機関は486存在しています。この数は、非常に多いといえます。このことにより、被害者は、アクセスが容易でかつ被害の原因に大きな関心を有する地元の認定機関により地元で法的手続きを遂行してもらえるという利益を受けることができます。

このクラス・アクションの対象となる傷害は、人用のヘルスケア製品と化粧品の使用による傷害のみに限定されています。タバコのような依存性のある精神活性製品、植物生産物または殺虫剤といった毒物による傷害については、厳格責任ルールを避けるために、意図的に対象から除外されています。この結果、フランスにおいて多くの訴訟の原因となっているアスベストによる疾患に関する請求については、クラス・アクションを利用することはできないとされています。

また、このクラス・アクションにおいて賠償を受けられる損害の範囲は、利用者の身体的損害に制限されています。この制限は、全額賠償というフランスの法原則と矛盾しているとも考えられます。例えば、精神的損害を被った被害者は、個人で別訴を提起することが求められています。

このクラス・アクションについては、既にいくつかの問題点が指摘されています。まず、ひとりの裁判官が被害者の全ての異なった事情(治療方法、病歴、ライフスタイル等)を考慮するのは困難であるため、この手続きは2つの段階により構成されています。第1段階では、被告の責任について審理し、第2段階では、被害者が賠償をうける損害について審理します。原告は「クラス(原告団)」に参加するまでに5年間を与えられていることから、ヘルスケア関連のクラス・アクションは、関係者全てにとって長期間かつ費用負担の大きい手続きであるという点で、批判が出ています。

また、クラス・アクションの主要な潜在的悪影響として、メディアに認識されるリスクの高さがあり、特に、当該クラス・アクションを提起した認定機関が、意図的にメディアへの露出を目指す場合もあります。訴訟案件の主要なメディアへの露出は、判決が出されない場合や、クラス・アクションが最終的に認められない場合であっても、企業イメージに即時かつ長期間にわたる悪影響を与えることはよく知られている事実です。