Global Legal Update Vol. 108 | 2024年10月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
ESG (環境・社会・ガバナンス)
米国証券取引委員会、キューリグ社のESG開示不備に対する調査について和解
SEC Settles Charges with Keurig Over ESG Disclosures
2024年9月10日、米国証券取引員会(SEC)は、Keurig Dr Pepper Inc.のカプセル式コーヒー商品K-CUPポッドのリサイクル可能性についてのESG開示が、「不完全で不正確」であるとの嫌疑に関する行政手続について和解を行いました。SECの気候変動開示規則の先行きは不透明であり、また、SECは気候変動・ESGタスクフォースを最近解散したばかりですが、本件は、SECが環境に関する開示規制について今後も引き続き焦点を当てていくことを示しています。
ESG開示を取り巻く規制環境はいまだ流動的ですが、ESG開示に関連する訴訟や法執行は増加しています。一例をあげれば、SECの気候変動開示規則には多くの疑義が呈されており、また注目すべき動向として、SECは、執行部内の気候・ESGタスクフォースを最近解散しました。SECの発表によれば、タスクフォースの専門知識は執行部全体で横断的に利用されているということになっています。そのような動向の一方で、SECは、他のESG開示に関する法執行を引き続き推し進めており、Keurig Dr Pepper Inc.(「キューリグ社」)に対するK-Cupポッド(「ポッド」)のリサイクル可能性についての不正確であるとの主張に関する最近の手続もこれに含まれます。
2024年9月10日、SECは、キューリグ社が証券取引所法第13条(a)及びそれに付随する規則13a-1に違反して「不完全で不正確な」開示を行ったとして、同社に対し排除措置命令を発するための手続を開始しました。SECは、キューリグ社の2019年及び2020年の有価証券報告書(フォーム10-K)における、ポッドは「効果的にリサイクルできる」との記載は「不完全で不正確」であると判断しました。その理由としては、キューリグ社によるポッドのリサイクル可能性に関する試験において、ポッドはリサイクル可能なゴミとして分別することが通常できることが示されていたところ、キューリグ社は、試験に参加した2社の大手リサイクル会社からはポッドを受け入れないというフィードバックを受けていたにもかかわらず、これを開示していなかったというものです。さらに、同社の2022年の有価証券報告書ではポッドのリサイクル可能性に関する記載が無くなっていました。
SEC及びキューリグ社は、1.5百万米ドルの支払いによる和解に合意しました。
和解後、SECのパース委員はSECの見解に反対する内容の談話を公表して、これを「キューリグ社のリサイクル可能性(に関する開示)を衒学的に解釈したもの」だと指摘し、キューリグ社がリサイクル可能なプラスチックを使用し、かつ同社の試験においてポッドがリサイクル可能であることが示されていた以上、同社による記載は正確であったと主張しました。同委員はさらに、仮にキューリグ社の記載が不正確であったとしても、SECはポッドのリサイクル可能性が2019年時点における投資家にとって重大な事項であったとの主張立証を行っていない点も指摘しています。
SECは引き続きESG開示を注視しています。上場会社は、今後も一般的な問題として自社のESG開示の正確性と完全性を評価し、SECが何を投資家にとって重大な事項と見ているかについて留意する必要があります。
その他、2024年9月は以下の情報をAlert/Commentary 等としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
欧州司法裁判所、報告義務のない取引に対する独禁法審査の拡大を差し止める
EU Court Holds Back Expansion of Antitrust Reviews to Non-Reportable Transactions
商事・不法行為訴訟
ワシントンDCの控訴裁判所がコカ・コーラ社による「持続可能性」の言説の相当性について審理を行う
D.C. Appellate Court Revives Case Against Coca-Cola, Placing "Sustainability" Claims Under Scrutiny
マサチューセッツ州の噓発見器法違反の主張に基づく集団訴訟の増加
Increase in Class Actions Alleging Violations of Massachusetts Lie Detector Statute
事業再編・倒産
オハイオ州の連邦破産裁判所は、倒産手続下で一定の譲渡禁止(Unassignable)契約の履行選択が可能か否かにつき、管財人又はDIP(debtor in possession)の履行意思を基準とする「Actual Test」を採用
Ohio Bankruptcy Court Adopts "Actual Test" to Determine Whether Certain Unassignable Contracts Can Be Assumed in Bankruptcy
外国倒産債務者の米国内財産に係る所有権を巡る紛争は、連邦破産裁判所による連邦倒産法第15章363条に基づく売却許可の前に解決されることが必要
Ownership Dispute Regarding Foreign Debtor's U.S. Assets Must Be Resolved Before a U.S. Bankruptcy Court Can Approve Sale Under Section 363 in Chapter 15 Case
初の判断:シンガポール国際商事裁判所が登録の無い外国会社のプレパッケージ型クロスボーダー再生スキームを認可
First Impressions: Singapore International Commercial Court Approves Cross-Border Prepackaged Scheme of Arrangement for Unregistered Foreign Company
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
ブラジル、データ保護法の執行を強化
Brazil Amps Up Enforcement of Data Protection Law
ESG (環境・社会・ガバナンス)
オーストラリアで義務的な気候変動開示法制が発効
Mandatory Climate Disclosure Laws to Take Effect in Australia
オーストラリアの規制当局による、環境に関する開示とグリーン・ウォッシングに対する取締り
Australian Corporate Regulators Continue to Target Environmental Claims and Greenwashing in Enforcement Activities
米国内国歳入庁(IRS)がクリーン水素生産に関するタックス・クレジットのガイダンスを公表
U.S. IRS Releases Guidance for Clean Hydrogen Production Tax Credit
フィナンシャル・マーケット
米国における投資運用業者(Investment Advisors)に対するマネーロンダリングの防止及び疑わしい取引の報告に係る新規制の導入
Investment Advisers Subject to AML and SARs Requirements
政府規制
欧州地政学リスクアップデート - 主要な政策と法令の動向 No. 116
EU Geopolitical Risk Update - Key Policy & Regulatory Developments No. 116
米国特許商標庁、AI発明の特許適格性に関するガイダンスへのコメント提出期限を延長
USPTO Extends Comment Deadline on Patent Eligible Subject Matter Guidance for AI Inventions
M&A
英国における対内直接投資の審査期間が長期化するも、承認率は上昇
UK Government Taking Longer With FDI Reviews, but Clearance Rates Higher
税務
豪州:CbCR強制開示(案)は慎重に執行されるべき
Australia Tax Reporting Proposal Warrants Careful Implementation (Bloomberg Law)
ジョーンズ・デイの出版物は、特定の事実関係又は状況に関して法的助言を提供するものではありません。本書に記載された内容は、一般的な情報の提供のみを目的とするものであり、ジョーンズ・デイの事前の書面による承諾を得た場合を除き、他の出版物又は法的手続きにおいて引用し又は参照することはできません。出版物の転載許可は、www.jonesday.comの“Contact Us”(お問い合わせ)フォームをご利用ください。本書の配信、および受領により弁護士と依頼人の関係が成立するものではありません。本書に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所の見解を反映したものではありません。