Global Legal Update Vol. 78 | 2022年4月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40以上のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
M&A
デラウェア州裁判所が、デラウェア州法はサンドバッギング条項を許容していることを判示
Delaware Court Holds That Delaware "Should Be a Pro-Sandbagging Jurisdiction"
2022年3月9日、デラウェア州衡平法裁判所はArwood v. AW Site Services, LLC事件において対審後の判断を下しました(その後、2022年3月24日に修正)。原告は数十年にわたり廃棄物管理事業を営み、2018年にこれを売却することに合意しました。原告は「公式の会計システム」を利用しておらず、きちんとした計算書類も作成していなかったため、買主が取引を行うか否かの判断に先立ち、独自に財務内容を固めることができるよう、会社の記録への完全なアクセスを与えることに合意しました。
クロージング後、買主は、原告が顧客に対して常態的に過剰請求を行っていたことを発見し、エスクロー口座上の買収資金をリリースすることを拒否しました。そのため、原告は、エスクロー上の資金を取得すべく訴えを提起しました。これに対し、買主は、反訴を提起し、原告が詐欺的な方法により買主に対して事業を買収するよう誘引したこと、対象会社の計算書類及び法令遵守に関する事項を含む、買収契約上の表明保証に違反したことを主張しました。
裁判所は、原告が詐欺的な方法により事業を買収するよう誘引したとの買主の請求は棄却したものの、原告が買収契約上の表明保証に違反したとの請求を認めました。すなわち、原告が顧客への過剰請求により「法令を遵守して」事業を行っていなかったことを認定しました。
その際、裁判所は、売主が原告に対し「サンドバッギング」を行っている可能性、すなわち、買主は売却前の対象会社の記録を完全に閲覧することができたため、この問題を取引実行前に認識しながらあえて実行し、その後に真実でないことを初めから認識していた表明保証の違反に基づいて訴訟を提起した可能性があることを考慮しました。証拠を比較衡量した結果、裁判所は、買主において表明保証が虚偽であることを実際に認識していたというのではなく、表明保証の真実性について無頓着であったというのが証拠に沿っていると判示しました。それでもなお、裁判所は、仮に買主が表明保証違反について実際に認識していたような場合であっても、買主は当該違反による損害を回復することができると判示し、「デラウェア州」が「俗に『サンドバッギング許容州』と呼ばれている通りである」と言及しています。
その後、裁判所は、修正意見において、当事者が指摘していなかった買収契約の条項において、損害賠償請求当事者が「違反を認識し、又は認識し得た場合」であっても、「損害賠償請求を行うことができる」とする定めがあったことを職権で認定しました。裁判官は、当事者がサンドバッギングを認める契約を締結していた以上、その合意を尊重すると述べ、さらに進んで、デラウェア州法においては、当事者が合意により排除しない限り、原則としてサンドバッギングが認められることに繰り返し言及しました。
これまで、デラウェア州最高裁判所は、デラウェア州のコモン・ローにおいて、当事者の合意が無い場合にサンドバッギングが認められるか否かについて判断していませんでした。しかし、本件におけるデラウェア州衡平法裁判所の判断は、少なくとも今のところ、デラウェア州法においてサンドバッギングが原則として認められることを確認するものであり、デラウェア州法を準拠法とする買収契約を作成する際には、本件の判断に留意する必要があるといえます。
ヘルスケア・ライフサイエンス
Vital Signs: デジタルヘルス法アップデート | 2022年冬
Vital Signs: Digital Health Law Update | Winter 2022
ジョーンズ・デイのデジタルヘルス法に関するニュースレター「Vital Signs」の冬号を発行しました。
2022年に入って以降も、デジタルヘルスに関する法令、規制、政策、業界の活動は引き続き急速なペースで進展しています。本Vital Signsは、米国および世界各国担当者による最も注目すべきデジタルヘルス法の最新情報を厳選し、ワンストップで提供するものです。
遠隔医療サービスが消費者から期待されるようになるにつれ、米国連邦医療保険の適用範囲は、最近の永続的な遠隔医療の柔軟性の法案とともに拡大しています。同様に、各国の管轄区域では、モダリティ要件を緩和し、消費者データとプライバシーの保護を強化する措置を取っている一方で、州および地方の課税当局は遠隔医療から得られる所得への課税を求めています。本号の「Industry Insights」セクションには、デジタルヘルスに焦点を当てた州や地方の課税当局について、経験豊富な税務弁護士の談話が記載されています。また、デジタルヘルスに関する特許出願に影響を与えるUPSTOの最近の動きについても報告しています。グローバルでは、デジタルヘルス政策がEU法域の最前線で議論されている中、データおよびプライバシー保護に関する数々の進展についてお読みいただけます。
その他、2022年3月は以下の情報をAlert/Commentary としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
欧州半導体法(EU Chips Act):半導体の自律化に向けた欧州連合の取組み
EU Chips Act: The EU's Push for Semiconductor Autonomy
欧州競争法執行機関によるウクライナ紛争に基づく混乱を緩和するための「必要かつ暫定的な」協調行為の許容
EU Competition Enforcers Permit "Necessary and Temporary" Cooperation to Mitigate Disruption from Ukrainian Conflict
商事・不法行為訴訟
過大医療費請求防止法(No Surprises Act)の最新状況:紛争解決手続に関する規則の無効判決
No Surprises Act Update: Rule Governing Dispute Resolution Process Set Aside
ウクライナ紛争:英国法に基づく債務不履行責任
Conflict in Ukraine: Liability for Non-Performance Under English Law
フランスがブロッキング法を強化する新命令を採用
France Adopts a New Decree Reinforcing the Effectiveness of the French Blocking Statute
事業再編・倒産
米国最高裁判所における破産事件の総まとめ
U.S. Supreme Court Bankruptcy Roundup
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
米国証券取引委員会がサイバーセキュリティのリスク管理、戦略、ガバナンス、インシデント開示に関する改正を提案
SEC Proposes Amendments Regarding Cybersecurity Risk Management, Strategy, Governance, and Incident Disclosure
バイデン大統領、重要インフラのためのサイバーインシデント報告法に署名
President Biden Signs Cyber Incident Reporting for Critical Infrastructure Act
エネルギー
米国証券取引委員会が気候変動リスクディスクロージャーに関する規則案を公表
SEC Releases Proposed Rule on Climate Risk Disclosure
環境NGOのClientEarthが英国でシェルの取締役に対する訴訟を検討
ClientEarth Threatens Legal Action Against Shell's Directors in England and Wales
フィナンシャル・マーケット
米国で事業を行う金融機関のESGリスク:2022年において予測されること
ESG Risks for Financial Institutions Operating in the United States: What to Expect in 2022
ニューヨーク州連邦裁判所がリップルラボに対する証券取引委員会の法執行について重要な判断
SDNY Issues Two Rulings in Closely Watched Enforcement Action Against Ripple Labs
訴訟・紛争解決
ウクライナ及びロシアにおける投資及び事業:投資協定の重要性
Companies With Investments and Businesses in Ukraine and Russia: The Importance of Investment Treaties
政府規制
規制の優先車線:高度自動運転車に関する連邦運輸省道路交通安全局の保安基準の最終アップデート
The Regulatory Fast Lane: Final Rule Updates Federal Safety Standards for Highly Automated Vehicles
カリフォルニア州における未請求財産に対する利息免除プログラム
California Unclaimed Property Amnesty on the Horizon
ヘルスケア・ライフサイエンス
メディケア受給者のための遠隔医療サービスの継続を支援する米国連邦政府の立法
U.S. Federal Actions Support Continued Telehealth Services for Medicare Beneficiaries
保険補償
政治リスク保険により、ロシアのウクライナ侵攻に起因する損失を手当てできる可能性
Political Risk Insurance May Cover Business Losses Resulting From Russia's Invasion of Ukraine
知的財産
AIコンポーネントのうち著作権保護が可能なものはどれで、不可能なものはどれか?
Which AI Components Are Copyright Protectable and Which Are Not?
労働・人事
契約が重要:オーストラリア高等裁判所が「従業員か請負人か」の判断に明確さをもたらす
Contract Is King: High Court of Australia Provides Clarity on 'Employee vs Contractor' Test
性的ハラスメント・性的暴行にかかる請求について強制的な仲裁を禁じる新しい連邦法
New Federal Law Prohibits Mandatory Arbitration of Sexual Assault and Harassment Claims
M&A
オーストラリアのテイクオーバー・パネルが過熱するM&A市場での独占交渉権に関するルールを再確認
Australian Takeovers Panel Reaffirms Exclusivity Rules in Hot M&A Market
COVID-19とM&A訴訟:2年間の教訓
COVID-19 and Merger Litigation: Takeaways After Two Years
ジョーンズ・デイの出版物は、特定の事実関係又は状況に関して法的助言を提供するものではありません。本書に記載された内容は、一般的な情報の提供のみを目的とするものであり、ジョーンズ・デイの事前の書面による承諾を得た場合を除き、他の出版物又は法的手続きにおいて引用し又は参照することはできません。出版物の転載許可は、www.jonesday.comの“Contact Us”(お問い合わせ)フォームをご利用ください。本書の配信、および受領により弁護士と依頼人の関係が成立するものではありません。本書に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所の見解を反映したものではありません。