Global Legal Update Vol. 90 | 2023年4月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40以上のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
独占禁止法・競争法
欧州司法裁判所、競争法上の届出が不要な企業結合取引について、長く休眠状態にあった「市場支配的地位の濫用」の法理による審査を復活
EU Court of Justice Revives Long-Dormant "Abuse of Dominance" Challenge to Non-Reportable M&A Deals
欧州司法裁判所は、Towercast社がEU企業結合規則の解釈に関する予備判決を求めた事件において、届出要件に該当しない企業結合取引についても、「市場支配的地位の濫用」を禁止するEU機能条約第102条の違反があると認める場合、各加盟国の競争法当局は取引を調査・禁止できるとの判断を行いました。
従来、EU及び加盟国においては、届出不要(又は実行済み)の取引を競争当局が審査対象とすることは極めて稀でしたが、昨年、欧州委員会は新たなガイドラインにより、欧州域内での売上がほとんど無い企業の買収についても、対象企業が将来にわたり競争上重要な地位を占める可能性がある場合には、各加盟国の競争当局が欧州委員会の審査を求めることを推奨していました。
本判決は、同ガイドラインに基づくEU企業結合規制第22条審査に加え、競争当局が届出不要の企業結合取引を審査対象とする新たな根拠となりました。本判決の判示に基づくようなクロージング後の取引の審査は、今後も稀な事案になると考えられるものの、買収者が取引実行前から高い市場シェアや「市場支配的地位」を有しているような場合には、たとえ対象企業に欧州域内での売上が無く届出要件を満たさない場合であっても、競合他社や顧客からの働きかけにより、競争当局によるクロージング後の審査が行われるリスクが生じることに留意する必要があります。
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
中国、個人情報の越境移転に関する標準契約弁法を公布
China Finalizes Measures on the Standard Contract for Cross-Border Transfers of Personal Information
2023年2月24日、中国サイバースペース管理局(以下「CAC」といいます)は、待望の個人情報越境移転標準契約弁法(以下「本弁法」といいます)を公布しました。
個人情報保護法(以下「PIPL」といいます)に基づき、現在個人情報取扱者は、個人情報(以下「PI」といいます)を中国国外に移転する前に、次のいずれかの手続要件を満たす必要があります。
- CACによるセキュリティ評価(以下「セキュリティ評価」といいます)に合格すること
- CAC認定機関からPI保護証明書を取得すること、又は
- データ受領者と標準契約(以下「SC」といいます)を締結すること
本弁法に以下の事項が定められています。
- 両当事者は、本弁法に添付されたSCの雛形を使用すること。両当事者はSCに抵触しない限り、条項を追加することができます。
- 個人情報取扱者は、SCが発効してから10営業日以内に関連するPIリスク評価と共に、省レベルのCACにSCを提出すること、及び
- 中国国外の受領者は、外国政府からSCに基づいて譲渡されたPIの提供要請を受けた場合、直ちに個人情報取扱者に通知すること。
CACの承認は必要ありませんが、CACはPIの移転がコンプライアンスに反すると判断した場合、審査し、修正を要求する権利を有します。
SCは、PI取扱者が移転されるデータの量又は性質により、セキュリティ評価を受ける必要がない場合にのみ使用することができます。本弁法は、個人情報取扱者が、セキュリティ評価の要件を回避するためにPIの移転を分割又はその他の方法で構成してはならないことを明示的に規定しています。
本弁法は2023年6月1日に発効します。2023年6月1日以前に発生した移転も含め、企業に法令を遵守した越境移転を行わせるために、2023年12月1日までの6ヶ月間、さらに猶予期間が設けられています。法令に従わなかった企業は、PIPLに基づく罰則の対象となり、是正命令やPI移転の停止から、最高5000万人民元又はPI取扱者の前年の売上高の5%を上限とする罰金まで幅広い罰則に処せられる可能性があります。
本弁法は、中国からPIを移転するほぼ全ての組織に影響を与えることになります。まだ実施していない企業は本弁法に照らして、既存のPI移転の取り決めを直ちに見直す必要があります。
調査・企業犯罪
FCPA 2022年次レビュー
FCPA 2022 Year in Review
海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act)(「FCPA」)の執行活動は、パンデミックによる影響からまだ回復していません。2022年、司法省(「DOJ」)と証券取引委員会(「SEC」)は、8件の企業FCPA事案を8億7800万ドルで解決し、うち4件は米国外の規制当局と協働して解決しました。また、DOJはFCPAに基づく起訴および申立てを7件公表し、SECは個人に対するFCPA執行を公表していません。FCPA執行統計の減少は一時的なものであると考えています。バイデン政権は引き続き腐敗防止を優先し、企業に対する刑事執行方針および企業コンプライアンスプログラムに関するいくつかの重大な変更を発表しており、企業および個人に対するFCPA執行についてより積極的な姿勢を示しています。
M&A
M&A/PEの分野における2022年の振り返りと2023年の予測
2022 Annual M&A/PE Review and 2023 Forecast
記録的な年となった2021年が終わり、2022年には取引の動きが37%も減少しました。これは2001年以来最大の前年比減少率となりました。しかしながら、困難で不確実な資金調達市場、ウクライナ紛争、インフレ、継続的なCOVID-19パンデミックの影響、サプライチェーンの問題、敵対的な規制当局など、2022年におけるあらゆる逆風に直面しながらも、M&A市場は多くの面で予想以上に持ちこたえました。
このアップデートでは、2022年に経験し、2023年においても引き続き広がりを見せている多くの課題を取り上げています。この課題には、新しいユニバーサル・プロキシー・カードに関する規則(新たな委任状投票規則)から、競争法の審査の強化、全世界的に拡大しているFDI(対内直接投資)審査制度、過半数を保有していない少数株主が支配株主とされ得るのかという激しい議論の的となっている論点まで、多岐にわたるものが含まれます。
このような背景から、ジョーンズ・デイは、カーブアウト、スピンオフ、ジョイント・ベンチャー、上場企業買収、クロスボーダー取引など、非常に重要かつ複雑な取引について重ねて依頼を受けるようになりました。このアップデートでは、幅広い事業セクターにわたりジョーンズ・デイが手掛けた2022年の案件のいくつかを紹介します。
その他、2023年3月は以下の情報をAlert/Commentary としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
EU、農業食品産業におけるサステナビリティ協定に関するEU競争法適用除外ガイドライン案を発表
EU Releases Draft Antitrust Exemption Guidelines for Sustainability Agreements in the Agri-Food Industry
欧州委員会の「コネクティビティ・パッケージ」による通信事業者の再編について
The European Commission's "Connectivity Package" Set to Reshuffle the Telecom Sector
事業再編・倒産
チャプター15手続に基づく承認は外国倒産・清算・再建手続に限定(外国倒産処理手続の承認の適用対象手続の範囲に関する裁判例)
Chapter 15 Recognition Limited to Foreign Insolvency, Liquidation, or Restructuring Proceedings
外国管財人による破産裁判所に対する連絡の懈怠はチャプター15手続の終結をもたらす(外国管財人の報告義務の懈怠に関する裁判例)
Foreign Representative's Failure to Communicate with Bankruptcy Court Warrants Closure of Chapter 15 Case
連邦倒産法のチャプター15手続に関する初の調査報告(*The Business Lawyerより転載)
Inaugural Survey of Chapter 15 of the Bankruptcy Code (The Business Lawyer)
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
米国証券取引委員会(SEC)、サイバーセキュリティに関する3つの規則案をパブリックコメントに付す
SEC Advances Three Cybersecurity Rule Proposals to Public Comment
フィナンシャル・マーケット
ベルギー金融サービス市場規制当局(FSMA)、発行体にとり想定外の株式希薄化をもたらす転換社債の発行に対する警告書を発出
Belgian Securities Regulator: Beware the Risks of Certain Convertible Bonds
米国シリコンバレー銀行の破綻:キャッシュマネジメントとリスク管理への教訓
The Silicon Valley Bank Failure: Cash Management and Risk Oversight
訴訟・紛争解決
集団訴訟の利用促進を図るフランス国民議会の法改正
French National Assembly Gives Class Actions a New Impetus
政府規制
米国環境保護庁が飲用水中のPFAS(有機フッ素化合物)に関する規制基準を提案
EPA Proposes Standards to Limit Certain PFAS Substances in Drinking Water
ヘルスケア・ライフサイエンス
米国食品医薬品局(FDA)、植物性代替牛乳の表示について待望の措置を講じる
FDA Takes Long-Awaited Action on Labeling Plant-Based Milk Alternatives
知的財産
米国著作権局、新たな人工知能のイニシアティブを開始
U.S. Copyright Office Launches New Artificial Intelligence Initiative
調査・企業犯罪
米国司法省、全ての連邦検察官に共通する企業犯罪の自主的な報告に関する新たな指針を公表
DOJ Announces New Voluntary Self-Disclosure Policy for All U.S. Attorneys' Offices
米国司法省、コーポレート・コンプライアンス・プログラム指針を改定し、新たな政策イニチアチブを公表するとともに、執行能力を強化
DOJ Updates Corporate Compliance Program Guidance and Announces New Policy Initiatives and Enforcement Resources
上訴審訴訟
倒産法を巡る米連邦最高裁判所の動向
U.S. Supreme Court Bankruptcy Roundup
労働・人事
セクシャル・ハラスメントを含む職場の心理社会的有害性に対処するオーストラリアの改革について
Australian Reforms Tackle Psychosocial Hazards, Including Sexual Harassment, in the Workplace
証券訴訟・証券法規制執行
米国証券取引委員会、四半期報告書においてサイバー攻撃に関し不十分な開示を行ったソフトウェア企業に対し3百万ドルの課徴金を課す
SEC Fines Company $3 Million for Allegedly Misleading Cyberattack Disclosures
ジョーンズ・デイの出版物は、特定の事実関係又は状況に関して法的助言を提供するものではありません。本書に記載された内容は、一般的な情報の提供のみを目的とするものであり、ジョーンズ・デイの事前の書面による承諾を得た場合を除き、他の出版物又は法的手続きにおいて引用し又は参照することはできません。出版物の転載許可は、www.jonesday.comの“Contact Us”(お問い合わせ)フォームをご利用ください。本書の配信、および受領により弁護士と依頼人の関係が成立するものではありません。本書に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所の見解を反映したものではありません。