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ジョーンズ・デイ・アラート:ドイツでのヘルスケアシステムにおける汚職行為の刑罰化

2015年7月29日、ドイツ政府は、ヘルスケアシステムにおける汚職行為を取り締まる法案("Entwurf eines Gesetzes zur Bekämpfung der Korruption im Gesundheitswesen", 以下「法案」)を承認しました。これによって、ドイツのヘルスケアシステムにおける汚職行為撲滅に向けた重要な一歩が踏み出されました。それと同時に、この法案には解釈の余地のある用語が使用されていることもあり、多くの課題が残されているといえます。この法案が提出された後、ドイツ議会で長期に渡る議論を招くことになりましたが、議論は進展しており、最終的に採択される可能性がかなり高まっています。これを受けてライフサイエンス企業としては、ドイツでのヘルスケア・プロフェッショナルとの交流に関するコンプライアンス・プログラムを検討する必要があります。

法案の背景
ドイツ連邦裁判所は、2012年、自営のヘルスケア・プロフェッショナルが公務員にも公的保険業者の代表者にも当たらないため、既存の汚職行為防止法の制約を受けないと判示しました。ヘルスケアシステムにおける汚職行為については、既に専門家に対する規制や医薬品の販売促進に関する規制に基づき制裁を受けることになっていましたが、ドイツ立法府は、刑事罰も必要であると判断したのです。

法案の影響を受ける者
法案は贈賄・収賄の双方を対象とします。収賄側についていえば、規制業種で働く全てのヘルスケア・プロフェッショナルが影響を受けることになります。これには、医師や薬剤師だけではなく、看護師、理学療法士に加えて、規制を受けている教育課程を経ていたり、許可を取得して初めて職業資格を保有することができるその他のヘルスケア・プロフェッショナルをも含みます。贈賄側についていえば、医薬品、医療機器、その他の医療用製品、更には患者の治療やラボでの分析等の、ヘルスケア製品・役務に関わる全ての者に適用されます。法案では、製品に関する規制で用いられる分類と、ヘルスケア費用償還に関する社会保障規制で用いられる分類の双方が用いられています(例えば、製品に関する規制に基づく分類である「医療機器」と、償還に関する法に基づく用語である「医療扶助」(製品規制の視点から見ると「医療機器」を表していることになる)の双方を列挙すること等)。しかし、この製品分類は、医療用製品の限界領域に関わるような例外的な場合を除き、一般的にいえば過去の判例で十分に定義されています。

「汚職行為」の定義
法案は、「汚職行為」を二つの要素を基にして定義しています。まず、供与し若しくは供与され、約束又は要求された「便益」が存在しなければなりません。便益には、広く有形・無形の便益を含みます。また便益には、会議への招待や、役務提供契約に基づき支払われる対価(独立第三者価格)をも含み、また指定された第三者(例:ヘルスケア・プロフェッショナルの家族の一員)への便益も含みます。次に、供与し又は供与された利益との関連性がなければなりません。これは大事な要素です。法案は二つのシナリオを考慮しています。一つ目は、(i) 競合者との比較において不当に有利な製品又は役務を提供する場合であり、二つ目は、(ii) 便益から独立した医療上の選択に関する専門家倫理規範の違反の場合です。一方で、法案では、ヘルスケア領域における正当な協力や、その結果として発生する報酬には影響を与えないものとしています。専門家が、専門家同士で交流したり、産業界及び役務提供者と交流するといった、ヘルスケア領域における高い協調的な性質を踏まえると、正当な協力と違法な便益を区別するのは難易度が高いといえます。

この法案の違反は、訴訟が提起された場合にのみ追及することができます。公的保険業者は立法の早期の段階で汚職行為と戦うためのタスクフォースを立ち上げています。もし明白な違反が通告されれば、そのタスクフォースは訴訟を提起することになりそうです。法案違反による刑罰は、罰金又は三年以下の懲役であり、特定の重大な事件では、三か月以上五年以下の懲役となります。夏が終わると政治的議論が再開されます。産業界としては、ドイツにおけるヘルスケア・プロフェッショナルとの関係について、とりわけ医薬品又は医療機器の処方・購入のインセンティブとの関連において、前向きに検討を行う必要があると考えられます。