Global Legal Update Vol. 99 | 2024年1月号
ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
EU、画期的なAI法に関し政治的合意に至る
EU Strikes Political Deal on Landmark Artificial Intelligence Act
2023年12月9日、欧州議会と欧州連合理事会(「EU」)は、世界初のAIに関する包括的な法的枠組みである人工知能に関する法(「AI法」)案について政治的合意に達しました。
AI法は、欧州市場に投入されEU内で使用されるAIシステムの安全性を保証し、基本的人権とEUの価値観を尊重することを目的としています。リスクベースのアプローチをとることにより、欧州内でのAI 分野への投資とイノベーションを促進すると同時に顧客の信頼も促進するというバランスの達成を目指しています。
AI法には域外適用があり、所在地にかかわらずAIプロバイダー、EU内のユーザー、およびシステムによる成果物がEU内で使用される場合はEU外のプロバイダーとユーザーに適用されます。
要約すると、AI法が制定された場合、次のことが行われます。
- 認識行動操作、職場で使用される感情認識、政府や企業による社会的スコアリングなどの特定のAIシステムを禁止します。
- リスク軽減システム、高品質のデータセット、アクティビティログ、詳細な文書、明確なユーザー情報、人間による監視、及び高レベルの堅牢性、精度、サイバーセキュリティなど、高リスク AI システムには厳しい要件が求められます。
- 他のAIシステムについて透明性に関する義務の大枠を定めます。たとえば、チャットボットや「ディープフェイク」などのAIシステムを採用する場合、企業はユーザーに機械と相互に作用していることを知らせる必要があります。また、
- 透明性を確保するために、汎用目的型AIモデルと基盤モデルに特定のルールを導入します。汎用目的型AIモデルは、技術文書、EU著作権法、トレーニングに使用されるコンテンツに関する規則に関する要件を満たす必要があります。システム上のリスクを引き起こす可能性のある強力なモデルは、リスクの管理と重大なインシデントの監視、モデル評価の実行、および敵対的テストに関連する追加の義務を履行する必要があります。
AI法はガバナンス構造を確立するもので、欧州委員会内に汎用目的型AIモデルを監督する任務を負ったAI局が設置され、規格の開発やテスト実施に参加し、EU加盟国全体に共通のルールを施行することになります。各国の規制当局がAIシステムを監督し、欧州委員会に対する調整プラットフォームおよび諮問機関として機能するAI委員会に集結することになります。
AI法違反に対する罰金は最大3500万ユーロ、または違反した企業の全世界年間売上高の7%に達する可能性があります。
この政治的合意は今後、EU議会による正式な採択が必要となります。これは各国による措置を必要とせず、2年間の移行期間後に直接適用が開始されます。ただし、特定のAIシステムの禁止は6か月後に適用され、汎用目的型AIの規則は12か月後に適用されます。AI法の法的要件を特定の技術的要件に翻訳するための多数の「調和基準」も、適用日より前に策定される可能性があります。
AI法の正式な採択後には、欧州委員会は、欧州および世界中のAI開発者に法定期限前にAI法の重要な義務を自発的に履行させることを目的としたAI協定を立ち上げる予定です。
訴訟・紛争解決
世界のクラスアクション(集団訴訟)の動向:第3部 – オーストラリア、ドイツ、フランス
Class Actions Worldview: Part III—Australia, Germany, and France
集団訴訟は米国においては数十年前から一般的なものになっていますが、その他の国々ではそれほど普及しておりません。しかし、多くの国において集団訴訟や集団訴訟類似の手続を制定する機運が再び高まっており、また米国の集団訴訟手続上存在する重要な手続保障が存しない国もあることから、状況やリスクは流動的なものになっています。ジョーンズ・デイは、世界最大かつ最も成果を上げている集団訴訟の被告側訴訟代理人グループの1つです。本ガイドは、世界5大陸40オフィスの訴訟専門弁護士の経験に基づき、世界各国(特に、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、中国、イングランド・ウェールズ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、メキシコ、スペイン、オランダ)の集団訴訟手続における新たな展開とリスクを検討し、各国法に共通する傾向と相違点を評価します。このような集団訴訟の傾向に関する洞察を通じて、世界中で事業を展開する企業が、グローバル市場における集団訴訟のリスクを理解し、評価し、管理できるようになることが本稿の目的です。
第3部では、オーストラリア、ドイツ、フランスにおける集団訴訟について検討しています。オーストラリアでは1992年以来、連邦レベルで集団訴訟が存在し、現在ではオーストラリアのほとんどの州が独自の集団訴訟制度を有しています。ドイツでは、ほとんどの請求について、原告各自が訴訟を提起する必要がある一方で、5つの集団訴訟類型が設けられています。フランスでは、他のEU加盟国に比べてかなり包括的な集団訴訟制度が存するものの、フランスの訴訟実務上、特段の支持を得るに至っておりません。
前回までの記事:
第1部: 米国と欧州連合
第2部: イタリアとスペイン
ヘルスケア・ライフサイエンス
米連邦政府機関が国立標準技術研究所(NIST)ガイダンス草案を通じて特許権を保全する権限を求める
Federal Agencies Seeking Patent Seizure Authority Through Draft NIST Guidance
2023年12月8日、NISTは、連邦資金による発明に対する政府のマーチインライト(連邦政府機関が、連邦政府の資金受領者に対し、特定の状況下で対象発明を第三者にライセンス供与するよう要求することができる権利)の行使に関する連邦機関向けの枠組み案を発表しました。提案された枠組みでは、考慮事項の中でも特に、発明が実用化されたかどうか、または健康や安全のニーズを合理的に満たしているかどうかに関連する要素として製品の価格が考慮されています。提案された枠組みに関するコメントは、2024年2月6日午後5時(米国東部標準時)までに提出される予定です。
政府はこれまでマーチインライトを行使したことはありませんが、NISTの通知は、連邦政府機関がヘルスケア業界を含め、競争促進と価格引き下げのためにそれらの権利を行使し始める可能性があることを示しています。
提案された枠組みは、バイオテクノロジーおよび製薬業界と、研究開発のために連邦政府から資金提供を受けている大学および小規模バイオテクノロジー企業との間の協力関係を冷え込ませる可能性があります。
その他、2023年12月は以下の情報をAlert/Commentary 等としてお伝えしています。
独占禁止法・競争法
最終決定が下された:米国反トラスト当局が企業結合ガイドラインの最終版を公表
The Hammer Falls: U.S. Antitrust Agencies Issue Final Antitrust Merger Guidelines
事業再編・倒産
連邦第5巡回区控訴裁判所、倒産手続下の債務者財産換価において「ストーキング・ホース」となる最初の入札者に対する補償金の支払が経営判断の原則を採用する基準及び共益債権の基準のいずれも充足すると判断
Fifth Circuit: Bid Protections for Stalking Horse in Bankruptcy Asset Sale Satisfied Both Business Judgment and Administrative Expense Standards
フロリダの連邦破産裁判所、債務者と債務者ではないその関連会社を実質的に1つの会社として統合して倒産処理を進めることを判断
Florida Bankruptcy Court Substantively Consolidates Debtor and Non-Debtor Entities
サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護
EU 緊急事態対応最新情報 – 主要な政策と規制の動向 No. 109
EU Emergency Response Update – Key Policy & Regulatory Developments No. 109
米国連邦取引委員会、オンラインでの子供のプライバシー保護の強化を目指す
FTC Seeks to Strengthen Privacy Protections of Children Online
ESG (環境・社会・ガバナンス)
欧州サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令の案文について大筋合意
European Institutions Reach Deal on EU Corporate Sustainability Due Diligence Directive
フィナンシャル・マーケット
香港証券取引所が、いわゆる「ダブル・ディップ」(IPO時の既存株主またはコーナーストーン投資家が、IPOの際に追加して投資する行為)に関する規制を緩和
Hong Kong Stock Exchange Implements Reforms to Relax IPO "Double Dipping" Restrictions
米国商品先物取引委員会が、スワップ・ディーラー及び先物取引業者に係るオペレーショナル・レジリエンスの枠組みを提案 – 事業継続及び災害復旧計画に係る取組みの強化を求める
The CFTC Proposes Operational Resilience Framework for Swap Dealers and Futures Commission Merchants
EUにおけるグリーンボンド規制が迫る – 2024年12月21日から適用
The EU Green Bonds Regulation Is (Almost) Live
政府規制
米国環境保護庁のPFAS報告規制による過去データの遡及的な開示義務
EPA's PFAS Reporting Rule Requires Broad Retroactive Disclosure of PFAS Data
「ロボコール」、「ロボテキスト」への消費者の同意に関する米国連邦通信委員会の新たな規制
New FCC Rule Affects Consumer Consent for Robocalls and Robotexts
上訴審訴訟
故サンドラ・デイ・オコナー(Sandra Day O'Connor)裁判官への追悼
A Tribute to Justice Sandra Day O'Connor
労働・人事
2023年におけるカリフォルニア州の労働雇用法の回顧
A Review of 2023 Labor & Employment Legislation in California
証券訴訟・証券法規制執行
米国証券取引委員会(SEC)の委員長が「AIウォッシュ」をけん制 – SECにおいてAI技術の利用に関する開示情報を精査する動き
SEC Chair Warns Against "AI Washing"
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