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ジョーンズ・デイ・コメンタリー:欧州司法裁判所、忠誠リベートについて当然には競争制限的ではないと判断

欧州司法裁判所は、インテルによる市場支配的地位の濫用を認定し10.6億ユーロの制裁金を課した2009年の欧州委員会決定を支持した普通裁判所の判決を破棄しました。インテルは、コンピュータメーカーに自社のx86系CPUを使用し、他のメーカーのCPUを使用しないよう求めた見返りに多額のリベートを支払っていました(以下「本件リベート」)。欧州委員会は、このインテルの行為に対し、市場支配的地位の濫用として当然違法であると判断し、また同時に「同等に効率的な競争事業者」テスト(As-Efficient-Competitor test)(以下「AECテスト」)を採用して、x86系CPU市場における競争を制限したと認定しました。2014年、普通裁判所は、この欧州委員会の決定を支持し、さらに本件リベートは、その性質上、当然に競争制限的であり、AECテストを適用する必要はないとしました。これに対し、欧州司法裁判所は、普通裁判所の判断を破棄し、本件リベートが、競争を制限したかどうかを再検討するよう普通裁判所に審理を差し戻しました(以下「本件判決」)。

本件判決は、欧州委員会が忠誠リベートについて競争制限的か否かを検討するに当たり、(1)市場支配的地位の程度、(2)忠誠リベートの対象となる製品の市場シェア、(3)当該リベートの条件、期間及び額、並びに(4)他の同等に効率的な競争事業者を排除する目的の有無を判断しなければならないことを明らかにするとともに、市場支配的地位の濫用事例においては、リベートの供与がもたらす効率性も考慮しなければならないことを明確にしました。また、本件判決は、立証責任にも触れ、市場支配的地位を有する被疑事業者が当該リベートは同等に効率的な事業者を排除するものではないとの事実関係を提示した場合、欧州委員会はそれが競争制限的か否かについて分析する責任を負うとしました。

本件判決は、事実上、ホフマン・ロッシュ事件において採用された忠誠又は排他的リベートは当然に市場支配的地位の濫用に該当するとの判断を覆すものとなっています。この結果、欧州委員会や各国競争当局にとって、今後、忠誠リベートに関する法執行を行うことはより困難になると思われます。

さらに、本件判決は、被疑事業者の防御権にも触れており、欧州委員会と事業者との非公式のインタビューであっても記録化し、被疑事業者の防御権を保障しなければならないとしました。

また、本件判決は、欧州委員会が当該案件について管轄権を有するか否かを判断するにあたり、Qualified Effects Test(immediate, substantial and foreseeable effect in the EU: EU市場に直接的、実質的、かつ予見可能な競争に関する影響を及ぼすか否かを判断して管轄権を認定)を適用することが適切であるとの判断をしました。

本コメンタリーは、欧州で事業を行う日本企業等にとって有用な情報ですので紹介します。詳細は、Jones Day Commentary “Rewarding Loyalty: ECJ Holds that Loyalty Rebates Do Not Per Se Restrict Competition ”(オリジナル(英語)版)をご参照ください。