オーストラリアのM&Aにおける「ゴー・ショップ」条項の行方
日本ペイントホールディングス株式会社(以下「日本ペイント」)によるオーストラリア証券取引所の上場企業であるDuluxGroup社(以下「Dulux」)の買収に関し、近時、オーストラリアの議決権行使助言会社は、Duluxの取締役が日本ペイントによる買収提案を受諾するに際して、(対抗提案を勧誘するための)「ゴー・ショップ」期間を設けることを交渉すべきだったのではないかと疑問を呈しています。
当該指摘は、日本ペイントが高額なプレミアムを支払うことを合意したことからすれば驚かされるものですが、以下の点からも、的を射ないものであると考えられます。
すなわち、オーストラリアのM&A法制においては、上場会社の支配権の移転に際し、既に一定のオークション手続が確保されるような制度となっています。同法制においては、対抗提案者がより有利な条件で対抗提案を行うことは何ら禁止されておらず、「ゴー・ショップ」条項を交渉することが新たな対抗提案者を出現させることに必要というものでもありません。
オーストラリアのM&Aにおける「ゴー・ショップ」条項は新たな論点ではありません。「ゴー・ショップ」条項がオーストリアのM&A取引における実務となるであろうという声もありますが、依然として非常に稀なものであり、今後もその傾向は変わらないものと思われます。
他方、日本では、経済産業省が近時策定した「公正なM&Aの在り方に関する指針」(なお、同指針の概要については、Jones Day News Letter “Japan Legal Update 2019年7月・8月号”をご参照下さい。)において、買収者が支配株主でない場合には、マーケット・チェック(他の潜在的な買収者による対抗的な買収提案が行われる機会を確保すること)が、M&A取引の公正性を担保するための措置として有効に機能する場合が多いと考えられています。
したがって、オーストラリアとは対照的に、日本では、今後、マーケット・チェックの実施が検討される事例が増える可能性もあるとの指摘もあります。
いずれにせよ、本コメンタリーは、オーストラリア企業の買収に関心を有する日本企業にとって有用な情報ですので、紹介する次第です。詳細は、Jones Day Commentary “Where to Go With "Go Shops" in Australian M&A?” (オリジナル英語版)をご参照下さい。
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