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Global Legal Update

Global Legal Update Vol. 105| 2024年7月号

ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。

独占禁止法・競争法

アジア太平洋地域における立入検査が増加:調査対応に関するガイド

Raids by Asia-Pacific Enforcers Are on the Rise: A Guide to Being Prepared for When the Enforcer Comes Knocking

展開:COVID-19パンデミック時の中断を経て、アジア太平洋地域の政府当局は立入検査の実施を再開している。

背景:調査過程における担当官に対する妨害行為に対しては罰金や禁固刑が科されることもあり得るものの、立入検査の対象とされた個人や企業には、当局の行き過ぎた調査から身を守るための多くの権利が認められている。

見通し:立入検査件数の増加は、当局がより積極的な調査手法を用いる傾向が強まっていることを反映しており、この傾向は今後も続くと予想される。今日のリスクの高い規制情勢において、企業は警戒をおこたらず、潜在的な法執行活動に対処し、社内の立入検査対応を含む規制リスクを軽減するための方針と手続きが強固で最新のものであることを確認しなければならない。

アジア太平洋地域全体(及び世界全体)で当局による立入検査が増加していることは、独占禁止法、贈収賄防止、サイバーセキュリティ、その他の政府執行機関による予告なしの調査開始のリスクを浮き彫りにするとともに、現地の企業のオフィスや従業員がこのような事態に対処できるように準備することの重要性を示している。このような立入検査はしばしば現場での捜索、文書の検査と押収、従業員に対する尋問を伴い、多くの場合、業務活動に大きな混乱を生じさせ、影響を受けた従業員の不安の種になる。企業は関係する従業員に対し、当局による立入検査の可能性と、企業利益を適切に守るために検査中及び検査後に取るべき措置について準備しておくことが極めて重要である。

 

知的財産

東京地方裁判所、AIシステムは日本の特許法上発明者になることができないと判断

The Tokyo District Court Holds an Artificial Intelligence System Cannot Be an Inventor Under Japanese Patent Law

諸外国における同様の判断に続き、日本の裁判所は、2024年5月16日、特許法における発明者は自然人に限られ、人工知能(AI)システムは含まれないと初めて判断しました。

東京地方裁判所令和5年(行ウ)第5001号事件において、原告は、PCT出願(国際出願番号IB2019/057809)に基づき、日本で特許出願(特許出願番号2020-543051)を行い、発明者名を「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載していました。

特許庁長官は、発明者は自然人に限られると述べ、原告に対し発明者名を自然人とする補正を命じました。原告はこれを拒否し、特許出願の審査請求を行いましたが、特許庁長官は当該請求を却下し、特許出願を却下する処分を行いました。原告は、特許法の「発明」にはAI発明も含まれており、AI発明に関する出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではないため、本件処分は違法であるとして、本件処分の取消しを求める訴訟を提起しました。

裁判所は、以下の理由で原告の請求を棄却しました。

まず、知的財産基本法2条1項では、「知的財産」を「人間の創造的活動により生み出されるもの」と定義しており、発明は自然人によって生み出されるものである。

次に、特許法36条は、特許出願の要件として、発明者の氏名を出願書類に記載することを求めており、この「氏名」は自然人を指すことから、特許法では、発明者は自然人であることを前提としている。

また、特許法66条は、特許権は特許の登録により発生すると規定しており、同29条1項は「発明をした者は、その発明について特許を受けることができる」と規定しており、AIシステムは法人ではなく、特許を受ける権利も有していないため、上記「発明をした者」は自然人である。

さらに、特許法における「発明者」にAIシステムも含まれると解釈した場合、AI発明を作成したAIAI発明を出力するソフトウェアやハードウェアの権利者、それを排他的に管理する者、またはAI発明に関係するその他の者のうち、いずれの者を発明者とすべきかという点につき、法令上の根拠を欠くことになる。

最後に、裁判所は、多くの国の特許庁と裁判所が、それぞれの特許法における「発明者」の定義にAIを含めることに慎重になっており、AIシステムによって生み出された発明に関連する権利に対処する新しい立法枠組みを作成するのは立法府の責任になるだろうと指摘した。

 

その他、2024年6月は以下の情報をAlert/Commentaryとしてお伝えしています。

商事・不法行為訴訟  

アプター(Apter)対保健福祉省:あなたは馬ではなく、米国食品医薬品局(FDA)は医師ではない(2023年度の食品医薬品分野の主要裁判例)

Apter v. HHS: You are not a horse, and FDA is not a physician (FDLI Top Food & Drug Cases, 2023)

厳格な公正の基準(Entire Fairness Standard)に基づくデラウェア州衡平法裁判所の希少な却下判決

Court of Chancery Grants Rare Motion to Dismiss Suit Governed by Entire Fairness Standard

クラスアクション(集団訴訟)和解基金に対する不正申告の増加に伴う和解リスクの上昇

Rising Fraudulent Claims Submitted to Class Action Settlement Funds Heighten Settlement Risk

 

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

コロラド州、AI消費者保護法案を制定

Colorado Enacts AI Consumer Protection Legislation

 

エネルギー

風を捕まえる:米国東海岸における洋上風力発電の開発

Harnessing the Wind: The Growth of Offshore Wind Development Along the East Coast of the United States

 

ESG (環境・社会・ガバナンス)

EUが二酸化炭素の回収・貯留技術の開発戦略を採択

EU Adopts Strategy to Develop Carbon Capture and Storage Technologies

 

フィナンシャル・マーケット

オーストラリアにおける金融サービス規制のアップデート(2024年上半期)

Australian Financial Services Regulatory Update | January-June 2024

EU域内の銀行は、より実効的になる当局の監督に対する備えが必要に

EU Banks Must Prepare for More Effective Supervision

 

訴訟・紛争解決

EU人権裁判所:気候変動への不作為が人権侵害に該当する旨の画期的判決

European Court of Human Rights: Landmark Ruling Deems Climate Inaction Amounts to a Violation of Human Rights

コロンビアにおける人権侵害への加担を原因とする米国企業の責任の認定

U.S. Corporation Found Liable for Complicity in Human Rights Violations in Colombia

 

政府規制

EUサステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令

EU Corporate Sustainability Due Diligence Directive

EUグリーン・ウォッシング規制枠組みの最近の展開

Recent Evolution of the European Regulatory Framework on Greenwashing

 

保険補償

貴社の供給先は如何ですか?供給網の気候変動リスクへの付保

What About Your Suppliers? Insuring Against Climate Risks to Your Supply Chain

 

調査・企業犯罪

繊維産業に縫い込まれた強制労働の撲滅に向けて

Unraveling the Forced Labor Stitched Into the Textile Industry

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