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Japan Legal Update Vol. 52 | 2020年夏号

調査・企業犯罪

公益通報者保護法の改正

令和2年6月8日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(以下、本稿において「改正法」といいます。)が可決、成立しました。同改正は、近時も事業者の不祥事が後を絶たないことから、公益通報手続を強化して早期是正を図り、もって国民被害を防止することを意図したものです。具体的な改正点の概要は、以下の通りです。

(1) 事業者がとるべき措置

事業者自らによる是正を促すべく、内部通報に対応するために必要な体制の整備等を事業者に義務付けました。その具体的内容については、指針が策定される予定です。さらに、事業者は、公益通報を受け、対象事実の調査是正に必要な措置をとる業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めるものとされました。ただし、従業員数300人以下の中小事業者については、上記は努力義務とされています。

さらに、公益通報対応業務従事者は、業務上知り得た公益通報者を特定させる情報に関して守秘義務を負い、違反に対しては刑事罰が課されることになりました。

(2) 行政機関等への通報の容易化

権限を有する行政機関等への通報を保護すべく、公益通報を理由とする解雇無効等の条件として、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合に加え、かかる理由がなくても、公益通報者の氏名・住所等を記載した書面を行政機関に提出する場合等が追加されました。

(3) 通報者のさらなる保護

公益通報者保護法の保護対象たる通報者の範囲を拡大し、労働者のほか、退職後1年以内の者や一定の役員が追加されました。また、保護の内容として、通報に伴う損害賠償責任の免除が追加されました。

改正法は、令和2年6月12日に公布され、公布の日から起算して2年以内に施行される予定です。事業者は、改正法の趣旨及び内容を踏まえ、必要な体制の整備等を進める必要があります。

フィナンシャル・マーケット

金融商品販売法の改正

令和2年6月5日、「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、本稿において「改正法」といいます。)が成立し、同月12日、公布されました。改正法は、フィンテックを始めとする情報通信技術の進展や、キャッシュレス社会に伴うニーズの多様化等に対応し、金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るため、金融商品の販売等に関する法律(なお、同法は、改正法により、その題名が「金融サービスの提供に関する法律」に変更されます。)その他の法律の改正を図るものです。改正法における改正内容のうち、主なものは以下のとおりです。なお、改正法は、公布日(令和2年6月12日)から1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

• 金融サービス仲介業の創設

情報通信技術の発展により、オンラインでの金融サービスの提供が可能になったことによって、銀行・証券・保険すべてのサービスをワンストップで利用者に提供するニーズが高まってきました。他方、現行法は、業界ごとの縦割りとなっており、これらのサービスを提供するためには、各法に基づく登録を個別に受ける必要がありました。これに対して、改正法では、「金融サービス仲介業」を創設し、その登録を受けることにより、1つの登録で銀行・証券・保険すべての分野のサービスの仲介を行うことが可能となりました。

• 資金移動業の規制合理化

現行法では、銀行以外の資金移動業者が取り扱うことができるのは、100万円以下の送金に限られています。これに対しては、海外送金等100万円超の送金ニーズがある一方、実態をみると、5万円未満の送金が約9割であり、送金額・リスクに応じた過不足のない規制の必要性が望まれていました。これを受け、改正法では、資金移動業につき、①高額送金を取扱可能な新しい類型(認可制)、②既存の類型(登録制)、③少額送金のみ取扱う類型(登録制であるが、一部の規制について緩和)の3つの類型に分けられることとなり、類型ごとに異なる規制が適用されることになりました。

上記の他にも改正法の内容は多岐に亘ります。フィンテック及びキャッシュレス化の流れは今後もますます進展していくものと思われ、既存の業者はもちろんのこと、これをビジネスチャンスと捉える他の事業者においても、改正法が自社の今後の事業に与える影響について、注視していく必要があります。

知的財産

著作権法の改正

令和2年6月5日、「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」(以下、本稿において「改正法」といいます。)が成立し、同月12日、公布されました。改正法においては、侵害コンテンツへのリンク情報等を集約したウェブサイト(いわゆるリーチサイト)を運営する行為に刑事罰が適用され、リーチサイトにおいて侵害コンテンツへのリンクを掲載する行為等が著作権侵害行為とみなされるほか、一定の要件の下で侵害コンテンツのダウンロードが違法とされます。これら以外にも、改正法は、著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化、著作物利用権についての対抗制度の導入をはじめ、著作権の適切な保護及び著作物の円滑な利用を図るための制度的・手続的改正を多数含んでおり、著作権実務に少なからぬ影響を与えることが予想されます。改正法は、一部を除き、令和3年1月1日から施行されます。

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

個人情報保護法の改正

令和2年6月5日、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、本稿において「改正法」といいます。)が成立し、同月12日、公布されました。改正法においては、個人情報の利用停止・消去等を請求できる要件が緩和される等、個人の権利が強化されました。他方で、情報漏洩時の報告義務の創設や不適切な方法による個人情報の利用の禁止の明確化等、個人情報取扱事業者の義務が追加され、法律違反時の法定刑も引き上げられています。また、データの利活用を促進する観点からは、氏名等を削除した情報である「仮名加工情報」の制度が創設されています。さらに、法の域外適用や個人情報の越境移転についてのルール等も整備されました。改正法は、一部を除き、公布日(令和2年6月12日)から2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。今後、施行日までに、改正法の内容を踏まえた個人情報保護委員会の規則やガイドラインの改正が予定されています。日本で事業活動を行っている企業は、施行日までに、改正法の内容を踏まえた社内体制の整備が求められます。

労働・人事

いわゆるパワハラ防止法の施行

令和2年6月1日、職場におけるパワーハラスメント防止対策を事業主に義務付ける、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇⽤の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の改正法(以下「パワハラ防止法」といいます。)が施行されました。

パワハラ防止法では、次の①から③までの3つの要素全てを満たす場合に職場におけるパワーハラスメントに該当すると規定しています。①優越的な関係を背景とした⾔動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの。そして、パワハラ防止法は、かかる職場におけるパワーハラスメントについて、事業主に対し防止のために雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けるとともに、事業主に相談したこと等を理由とする不利益取扱いを禁止しています。

雇用管理上講ずべき措置については厚生労働大臣指針に規定されており、(a)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、(b)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、(c)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応、(d)(a)から(c)までの措置と併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)が挙げられています。

なお、厚生労働大臣は事業主に対し、助言、指導又は勧告をすることができるほか、勧告に従わなかった事業者についてはその旨を公表できることとされています。また、雇用管理上講ずべき措置等の施行状況について報告を求めることもでき、かかる報告の懈怠又は虚偽報告に対しては罰則も設けられています。

雇用管理上講ずべき措置は、大企業については令和2年6月1日に既に義務化されており、中小企業についても令和4年6月1日から義務化される予定です(それまでの間は努力義務)。各企業における義務化のタイミングをにらみつつ、社内の体制の点検と迅速な対応が求められます。

政府規制

改正外為法の施行による対内直接投資規制の強化

令和2年5月8日、「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」(以下、本稿において「改正法」といいます。)が施行され、その後30日間の猶予期間の満了をもって、同年6月7日から全面適用されました。改正法は、米国を始めとする各国において、安全保障等の観点から外国投資に対する対応が強化されている潮流を踏まえ、日本においても、国の安全等を損なうおそれがある投資に適切に対応することを意図して、対内直接投資規制の強化等を行うものです。具体的には、事前届出の対象となる上場会社の株式取得の閾値につき、10%から1%に引き下げるとともに、取得時の事前届出に加え、役員への就任及び指定業種に属する事業の譲渡・廃⽌等の一定の行為を行う場合についても新たに事前届出の対象とされました(改正法の詳細については、2019年11月・12月号をご参照下さい。)。

また、令和2年6月15日、関連する告示が改正され、感染症に対する医薬品に係る製造業及び高度管理医療機器に係る製造業が、事前届出の対象となる指定業種に新たに追加されました。これは、今般の新型コロナウイルス感染症の蔓延を踏まえ、外国投資により我が国の安全保障、人の生命又は健康に重大な影響が及ぶ事態を適切に防止することを目的とするものであり、今後は、これらの業種の企業に対する対内直接投資についても新たに事前届出の対象とされます。

以上のとおりですので、外国投資家が日本への投資を計画するに際して、また、その後の投資管理に際しては、改正法の影響を適切に見極めた上、外国為替及び外国貿易法の規制を遵守するための適切な対応を取る必要があります。

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